鳳仙花










「似てるなあ。」

「…え?」
突然掛けられた言葉に振り返ると、そこには金髪の青年が立っていた。
にこにことした表情で、ヴァネッサに近付いてくる。
「…あの、」
「あ、俺はフォルデ。ルネスの騎士なんだ」
「あ…私はフレリアの天馬騎士団のヴァネッサと申します」
ヴァネッサはぴしっと姿勢を正し、フォルデと名乗った青年に丁寧にお辞儀をした。
「ああ、そんな堅く挨拶なんてしなくていいって。俺達、同じ戦場で戦う仲間なんだしさ」
「しかし、騎士たるもの、いかなる場でも礼儀正しくするべきものかと、」
いつもの様に、はきはきとした声でそう言うと、彼はくっくっと笑い出してしまった。
「っははは!…君ってさ、本当にそっくりだなあ」
「?…先程から話が見えないのですが…」
ヴァネッサは何か自分が拙い事でも言ったのかと一瞬焦った。だが彼は、
「あーごめんごめん。それがさ、君と俺の相棒が似てたもんだから、思わず笑っちゃって」
「貴方の…相棒と?」
ヴァネッサは一瞬顔を顰める。正直、彼の様な性格の人物とはあまり関わりを持ちたくはないというのが本音だった。
彼の様に奔放そうな人物と居ると、自分の規則正しいリズムが崩されてしまうのが嫌だからである。
だが彼はそんな事は知る由もなく、
「そ。俺の相棒も君みたいに堅くて、真面目な性格でさ」
「はぁ」
彼はその相棒の人物を思い出しているのか、僅かに頬が綻んでいる気がした。
よく見ると、彼の容姿はどちらかと言えば女性に近いのかもしれない。男らしい眉や、声を覗いてしまうと、女性そのものに見える気がした。

「特にな、その“騎士たるもの”とか、あいつと全く同じ言葉で」

まるで本当にあいつみたいだ、と何処か楽しそうに。思わず、唇が言葉を漏らした。

「……貴方は、真面目な人に興味があるのですか?」
「ん?っていうか、あいつが単に真面目だっただけだけど」
「…そうですか」



一瞬、ヴァネッサはどきりとした。何故、私はこんな質問をしてしまったのだろうかと。
まるで、私は―――



「でも、真面目なあいつだから相棒になった、のかもな」
性格が反対だから逆に面白いんだ、などと彼は笑う。
「貴方は、変わっていますね」
「そうかなあ?」
「普通、人は正反対の性格の人物とは、あまり付き合わないものではありませんか」
「うーん…」

すると、彼は突然ヴァネッサに手を伸ばした。 
「!」
「…髪、緑色なんだな。」
「見れば、分かるでしょう。」
ヴァネッサは内心、声が震えていないかと心配になった。彼の手が伸びてきたのがあまりに突然で、男性に慣れない彼女にとってはかなり驚く事だったのだ。
「あいつもな、緑の髪してるんだ」
「………」
あいつはもう少し深い緑だけど、と付け加えてさらりと零れる髪を愛しそうに、優しい目つきで彼は見る。瞳の色が、まるで光が零れた様な色をしていて、美しかった。
思わず、ヴァネッサはぷいと顔を背ける。
「そうですか、それが何か…」


「真面目で堅い人でも、案外いろんな事を喋ると、大抵面白い人なんだよな。」



「……!」




彼はにこりと笑うと、呼びとめてごめんな、とだけ言って去っていった。
後には、ヴァネッサだけが残される。


(何で、貴方は)



「私は…相棒の方と、そんなに似ているんですか…?」

震えを止められなくなった唇が、それだけを言葉にした。






End


ヴァネッサ初恋(? 話。
彼女密かに好きなんです...実はまだこの二人の恥ずかしい支援を見ていないという(←
くっそさむい迷言(笑 を言わない彼を書きたかった。いや、ナチュラルに迷言を吐く彼も好きですけど。 2013,3,31



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